狂人か、天才か。異才の現代音楽家「おきあがり赤ちゃん」の世界。

大量の赤ちゃん用の“起き上がり小法師”を用い、宅録で現代音楽を奏でるアーティスト「おきあがり赤ちゃん」。最新アルバムをリリースしたばかりの彼の自宅に訪問し、インタビューを敢行。

Interview | 2017.06.06

「おきあがり赤ちゃん」は、赤ちゃん用のおもちゃである“起き上がり小法師”を楽器として使用し、電子音に加工しながらミニマルな音楽をつくるアーティストだ。その世界観は非常に独特で、複数の起き上がり小法師が奏でる音が静謐に鳴り、奇妙なのだが、不思議と調和するアンサンブルとなっている。

演奏中の「おきあがり赤ちゃん」(撮影:井上大輔)

2017年3月に制作された、自身で映像も手がけた作品「おもちゃの音の展覧会」の映像
現代音楽家「おきあがり赤ちゃん」こと高山吉朗さんは1957年生まれ。現在は自営業で、千葉県にある自宅で制作を行っているという。自宅を訪れ、話を聞いた。
8年前から集めはじめた起き上がり小法師は200体を超えた。
--起き上がり小法師を集めはじめたきっかけは何ですか?
8年ほど前に下北沢の古本屋で小さい起き上がり小法師を見つけたんです。それを4年くらい眺めたり、回したりしていて、可愛いなぁ、と思っていたんですが、これってもしかしてもっと大きくて音がするんじゃないのかな、と。そう思い、近所のハードオフに行ったら、こいつが1300円で売っていたんです。

1300円で売られていた起き上がり小法師を持つ高山さん(撮影:井上大輔)

あまりにも音がいいので、宅録で録音して、動画を作りはじめました。そのうちもう一個欲しいなと思い、おもちゃ屋さんに行ったら、トイローヤルという会社のポロンちゃん、というのが売っていて、それを買ってきたんです。ただ、音が硬くて、何か違うんですよ。それで、またもう一個欲しくなって、ネットオークションを探したら、あるわあるわで。いろいろ買ってみたんですが、買っても買っても同じ音がない。それでいまは全部で200人を少し超えるくらい。小さい起き上がり小法師との出会いがなければ、いまのコレクションもなかったですね。

さまざまな起き上がり小法師のコレクション(撮影:井上大輔)

それを用いてアルバムを作って、最初のアルバムは起き上がり小法師6人くらいで作り、結局2枚組になりました。そのアルバムは起き上がり小法師の音と、赤ちゃん用のガラガラでつくったんですが、ガラガラの持つ柔らかい音は、どうやっても録音できない。ダンボール被って録音してみたりしたが、うまくいかなかったです。

ガラガラを手にする高山さん(撮影:井上大輔)

2枚目になる今度のアルバムは、20人くらいの起き上がり小法師で作っています。それと、レコードプレーヤーに乗せたら音がするかな、と思って乗せてみたが、音がしない。試しにターンテーブルを斜めにしたら鳴ったので、その音も入っています。さらに、船舶放送の声がよかったので、それを初音ミクのようにボーカロイド的に使った音も入れ込みました。
音楽経験ゼロで、還暦を前にして音楽活動スタート。
--以前、音楽関係のお仕事をされていたんですか?
いえ、音楽関係の仕事をしたことがありません。初めて就職したのは、御茶ノ水にあったレストランで、その後、地元の千葉に戻り、喫茶店を経営していて、バブルのあとくらいに場所がよかったんで、銀行が金出すから、オフィスビルを立てないか、という話が持ち込まれたんです。しばらくは軌道に乗っていたんですが、リーマンショックで破産するんじゃないか、というところまで行った。付き合いのあった銀行はお金を貸してくれなかったんですが、他の銀行に行ったら、頑張っていきましょう、と6億円貸してくれたんです。あと10年くらいで、借金を返し終わる予定です。なので、音楽はもちろん、表現活動などは、全くしていませんでした。音楽をはじめたのは還暦を前にした56歳頃のときでした。
音楽の影響はフランク・ザッパや、武満徹や高橋悠治。
--音を作る上で影響を受けたアーティストはいますか?
フランク・ザッパですね。特に「Jazz From Hell」というアルバム。だいぶ世代が前の、サンプリングするシンセサイザーで作っていた衝撃的なアルバムでした。テクノなどは聞かず、ロックばっかり聞いていましたね。現代音楽も若い頃は聞かなかったんですが、音楽をやり始めてから聞くようにしています。武満徹とか高橋悠治とか、外国でも近代のバルトークなどです。ジョンケージのプリペアードピアノなども面白いです。

フランク・ザッパのアルバム「Jazz From Hell」を手にする高山さん(撮影:井上大輔)

起き上がり小法師はただの楽器ではなく、愛着がある。
--起き上がり小法師とのコミュニケーションなども取られるのですか?
演奏前にはよろしく頼むよ、と語りかける感じですね。よくなってくれたね、とか。演奏に使えなかった子には、ごめん、また今度使うから、とか。ただの楽器ではなくて、愛着が湧いています。こんなこと言うと、引いてしまう人もいますが(笑)
「おもちゃの音のミュージアム」をつくれたら、次の日に死んでもいい。
--今後の展望について聞かせてください。
最終的には「おもちゃの音のミュージアム」というのを作ろうと思っているんです。音の出るおもちゃを集めて、子供からお年寄りまで楽しめる施設にしたい。誰が来ても、鳴らせて、録音とかもできるようにする。例えば、床にも起き上がり小法師を置いて誰でも鳴らせるようにしてあげて。これで音楽作ってみたい、という人がいたら好きに録音して、その音源を持って帰ってもらいたいんです。起き上がり小法師で音楽を作っている人が続いて欲しい。これだけあれば、音の違いもわかるし、音の組み合わせも考えてくれると思うので。そのミュージアムを作れたら、次の日に死んでもいいくらいです。
取材スタッフの帰り際に、壊れた起き上がり小法師を見せてくれた高山さん。壊れた起き上がり小法師を、分解して修理すればいいんじゃないですか、と話したスタッフに対して、「音の秘密、構造は見ないようにしているんです。音の秘密は秘密のままがいいな」。と語ってくれた彼から、楽器である起き上がり小法師への深い愛情を感じ、圧倒的なオリジナリティを持つ音楽の核になる部分に触れた気がした。
おきあがり赤ちゃんの最新アルバム「振り子人形」発売中
いままでの映像作品・写真など

演奏する高山さん(撮影:井上大輔)

こけしのような起き上がり小法師を持つ高山さん(撮影:井上大輔)

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anTeNT編集部
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